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第3章 3D空間の基礎

$§$3-11 行列による回転 2


前節ではx軸、y軸、z軸を回転軸とする回転行列を扱った。3D空間における回転で指定できる回転軸は、この3軸だけではなく無数に存在する。本節では、いわゆる行列による任意軸回転について見ていく。


A) 任意軸回転を表す行列

次の行列は、ロドリゲスの回転公式(Rodrigues' rotation formula)という公式から得られるもので、3D空間において原点を通る任意の軸の周りの回転を表す行列である。

単位ベクトルで表された回転軸 $\boldsymbol{n} = (n_x, n_y, n_z)$ の周りに角度 $\theta$ だけ回転させる行列($3\times 3$行列)
\[\begin{pmatrix}n_x^2(1-\cos\theta) + \cos\theta &n_xn_y(1-\cos\theta) - n_z\sin\theta &n_xn_z(1-\cos\theta) + n_y\sin\theta \\n_xn_y(1-\cos\theta) + n_z\sin\theta &n_y^2(1-\cos\theta) + \cos\theta &n_yn_z(1-\cos\theta) - n_x\sin\theta \\n_xn_z(1-\cos\theta) - n_y\sin\theta &n_yn_z(1-\cos\theta) + n_x\sin\theta &n_z^2(1-\cos\theta) + \cos\theta \end{pmatrix}\]

同次座標に対応させるために$4\times4$行列で表した場合
\[\begin{pmatrix}n_x^2(1-\cos\theta) + \cos\theta &n_xn_y(1-\cos\theta) - n_z\sin\theta &n_xn_z(1-\cos\theta) + n_y\sin\theta &0\\n_xn_y(1-\cos\theta) + n_z\sin\theta &n_y^2(1-\cos\theta) + \cos\theta &n_yn_z(1-\cos\theta) - n_x\sin\theta &0\\n_xn_z(1-\cos\theta) - n_y\sin\theta &n_yn_z(1-\cos\theta) + n_x\sin\theta &n_z^2(1-\cos\theta) + \cos\theta &0\\0 &0 &0 &1\end{pmatrix}\]

次のプログラムは前節でも使用した、カスタムライブラリーの回転行列を取得するメソッド TH3DMath.GetRotation4x4(float deg, Vector3 axis) である。このメソッドは上記の行列をそのまま実装しているので任意軸回転にも対応している。

[GetRotation4x4]
public static Matrix4x4 GetRotation4x4(float deg, Vector3 axis)
{
    Vector3 n = axis.normalized;
    float nx = n.x;
    float ny = n.y;
    float nz = n.z;
    float theta = Mathf.Deg2Rad * deg;
    float cosT = Mathf.Cos(theta);
    float sinT = Mathf.Sin(theta);

    Vector4 c1 = new Vector4( // column1
        nx * nx * (1 - cosT) + cosT, nx * ny * (1 - cosT) + nz * sinT, nx * nz * (1 - cosT) - ny * sinT, 0.0f
    );
    Vector4 c2 = new Vector4( // column2
        nx * ny * (1 - cosT) - nz * sinT, ny * ny * (1 - cosT) + cosT, ny * nz * (1 - cosT) + nx * sinT, 0.0f
    );
    Vector4 c3 = new Vector4( // column3
        nx * nz * (1 - cosT) + ny * sinT, ny * nz * (1 - cosT) - nx * sinT, nz * nz * (1 - cosT) + cosT, 0.0f
    );
    Vector4 c4 = new Vector4(0.0f, 0.0f, 0.0f, 1.0f); // column4

    return new Matrix4x4(c1, c2, c3, c4);    
}    

注意すべき点は、Unityでは行列を作成する際には引数に列をセットしなければならない。この場合では22行目の new Matrix4x4(c1, c2, c3, c4) の4つの引数には、それぞれ第1列目から第4列目を表すVector4データが渡されているのである。c1c2c3c4は行列の各列を表すデータである(行ではない)。
なお、このメソッドの第2引数axisには回転軸を表すベクトルをセットするが、これは単位ベクトルでなくても構わない。このメソッドの冒頭で正規化されるからである。


図1 Trino 初期状態

B) オブジェクトに任意軸周りの回転行列を実行する

図1には、オブジェクトTrinoが初期状態で置かれている。このオブジェクトの中心は図中のCで表されている白い球で、この球の中心は原点に一致している。この中心の球から(y軸方向の)上下に3本ずつ腕が出ており、上側に出ている腕の先にはR、G、Bと表示のついている3つの球がある。
また、各腕の長さはみな等しく、各腕は互いに直交している

では、このオブジェクトTrinoに任意軸周りの回転行列を実行していこう。
まず始めに、CからRの方向を回転軸として、この軸の周りに$50$°の回転を行う。図2における淡い赤色のベクトルは、この回転軸を表している(オブジェクトと重なっているため見えないが、このベクトルは原点を始点としている)。

  • 図2 C--R方向を表す回転軸(始点は原点)
  • 図3 GやBが回転する円周
  • 図4 C--R周りの50°の回転

Trinoの中心Cから出ている各腕の長さは等しく、互いに直交している。したがって、腕CG、CBは腕CRと直交している。さらに、長さについては CG = CB である。前節で述べたように、ある点を回転軸の周りに回転させることは、その点から回転軸へ垂線を下ろしたときの、垂線の足を中心とし、垂線の長さを半径とする円周上の回転に等しくなる。球G、Bを点とみれば、今回の場合は腕CG、CBは腕CRと直交しているので、それらの腕は点G、Bから回転軸へ下ろされた垂線とみなすことができる(球Cを点と考えれば、垂線の足が点Cである)。そしてCG、CBは長さが等しいので点G、Bが回転する円周は全く同じものになる(図3)。

オブジェクトTrinoに、上記の回転を実行するプログラムを以下に示す。
Vector3 posR = new Vector3(2.8284f, 2.4495f, -1.4142f);
Matrix4x4 rotCR = TH3DMath.GetRotation4x4(50.0f, posR); // C--R周りの回転
Trino.SetMatrix(rotCR);    

posR は球Rの(中心の)位置を表している。2行目の回転行列を取得するメソッドの第2引数には、回転軸を表すベクトルをセットするが、ここではposRが使われている。回転軸を表すベクトルは球Cから球Rの方向を表すベクトルなので、球Cの(中心の)位置を Center とすれば、CからRの方向は (posR - Center) である。Center は上で述べたように原点なので結局、(posR - Center) = posR となり、posRが回転軸を表すベクトルとして使われているのである。
このプログラムの実行結果は図4に示されている。

では次に、上記の回転をした状態のTrinoに対して、今度はCからGの方向を回転軸として、この軸の周りの回転を実行しよう(図5)。ここで注意すべきことは最初の回転でGの位置は動いているため、まず、Gの回転後の位置を求める必要がある。
ただし、これは次のように簡単に求めることができる。
Vector3 posR = new Vector3(2.8284f, 2.4495f, -1.4142f);
Vector3 posG = new Vector3(-2.8284f, 2.4495f, -1.4142f);
Matrix4x4 rotCR = TH3DMath.GetRotation4x4(50.0f, posR); // C--R周りの回転
Vector3 posG1 = rotCR * posG;    

図5 C--G方向を表す回転軸(最初の回転後の状態 ; この状態でのGの位置が posG1)
2行目の posG は球Gの(中心の)位置を表している(この位置は回転前の位置、すなわち初期状態での位置である)。このposGに対しても同じように先ほどの回転行列を実行すれば、回転後の位置が得られるわけである。回転後のGの位置は、4行目で posG1 にセットされている。
したがって回転後のCからGの方向とは、上記の Center を再び使えば (posG1 - Center)、すなわち posG1 である。このposG1が、次の回転における回転軸を表すベクトルとして使われることになる(posG1は図5におけるGの位置を表す)。

以下では便宜上、最初の回転における回転軸をCR軸、第2の回転における回転軸をCG軸と表記する。
今回のプログラムは最初の回転後の状態から、CG軸周りに毎フレーム1°ずつ回転し続けるプログラムである(プログラム中のインスタンス変数i_degRotは回転角度を表し、毎フレーム$1$ずつ増加する)。
Vector3 posR = new Vector3(2.8284f, 2.4495f, -1.4142f);
Vector3 posG = new Vector3(-2.8284f, 2.4495f, -1.4142f);
Matrix4x4 rotCR = TH3DMath.GetRotation4x4(50.0f, posR);      // CR軸周りの回転
Vector3 posG1 = rotCR * posG;

i_degRot++;
Matrix4x4 rotCG = TH3DMath.GetRotation4x4(i_degRot, posG1);  // CG軸周りの回転

// CR軸周りに回転させてからCG軸周りに回転させる
Matrix4x4 R = rotCG * rotCR;
Trino.SetMatrix(R);

4行目までの処理は上で述べた通りである。最初の回転後の状態におけるCG軸を表すベクトルがposG1であり、7行目で回転行列を取得する際の回転軸を表す引数として、posG1をセットすることでCG軸周りの回転行列rotCGが得られる。ただし、このrotCGをそのままTrinoにセットしても意味がない。
今回実装する回転は、最初の回転後の状態から、CG軸周りに回転させなければならない。具体的には、図5の状態からCG軸周りに回転させることが必要なのである。もし、Trinoに行列をセットする際に上記の10~11行目を次のように書き換えて、
Trino.SetMatrix(rotCG);    
とした場合は図5の状態ではなく、図1の状態のTrinoに回転を実行してしまうことになる。そして、その場合の回転は図1におけるCG軸周りの回転にはならない。
7行目で取得した回転行列rotCGは、図5におけるTrinoのCG軸周りの回転であるので、毎フレーム、Trinoをまず図5の状態にしてからrotCGを実行しなければ意味がないのである。「図5の状態にする」とは、最初の回転であるCR軸周りの$50$°の回転を実行することである。これはプログラムの3行目で取得される回転行列rotCRを実行すればよい。
つまり、最初の回転後の状態からCG軸周りに回転させるためには、毎フレームTrinoにrotCRを実行し、その後にrotCGを実行しなければならない。10~11行目の処理がそれにあたるわけである。
// CR軸周りに回転させてからCG軸周りに回転させる
Matrix4x4 R = rotCG * rotCR;
Trino.SetMatrix(R);

図6 RやBが回転する円周
図7 CG軸周りの回転

今回の回転軸である腕CGと腕CR、CBは直交しており、長さについては CR = CB である。最初の回転の箇所でも説明したが、この場合にはR、Bの回転軌道は同じものになる(図6)。
図7は、CG軸周りの回転プログラムの実行結果である。


C) 直交行列

回転行列は詳しくは直交行列(Orthogonal Matrix)という行列の一種である。本節の最後に、この直交行列について簡単に述べておこう。

行列$A$が次の関係を満たすとき、$A$を直交行列という (以下の$A^T$は$A$の転置行列で、$I$は 単位行列(identity行列))。
\[A^TA = AA^T = I \]これは、直交行列$A$の転置行列$A^T$は$A$の逆行列であることを意味する。すなわち、
\[A^T = A^{-1}\]である(逆行列については3-7節、転置行列については3-8節参照)。

先に述べた通り、回転行列も直交行列の一種であるから回転行列もこの性質を持っている。つまり、回転行列の逆行列を求めるには、その回転行列を転置すればよいのである。

(例)
y軸周りに角$\theta$回転させる行列$R_y$とその転置行列である$R_y^T$の積を計算してみよう。
\[R_y = \begin{pmatrix}\cos\theta &0 &\sin\theta\\0 &1 &0\\-\sin\theta &0 &\cos\theta\\\end{pmatrix}\qquad R_y^T = \begin{pmatrix}\cos\theta &0 &-\sin\theta\\0 &1 &0\\\sin\theta &0 &\cos\theta\\\end{pmatrix}\]
\begin{align*}R_yR_y^T &= \begin{pmatrix}\cos\theta &0 &\sin\theta\\0 &1 &0\\-\sin\theta &0 &\cos\theta\\\end{pmatrix}\begin{pmatrix}\cos\theta &0 &-\sin\theta\\0 &1 &0\\\sin\theta &0 &\cos\theta\\\end{pmatrix}\\\\&=\begin{pmatrix}\cos\theta^2 + 0 + \sin\theta^2 &\cos\theta\cdot0 + 0 + \sin\theta\cdot0 &\cos\theta(-\sin\theta) + 0 + \sin\theta\cdot\cos\theta\\0\cdot\cos\theta + 0 + 0\cdot\sin\theta &0 + 1 + 0 &0\cdot(-\sin\theta) + 0 + 0\cdot\cos\theta\\\cos\theta(-\sin\theta) + 0 + \cos\theta\sin\theta &-\sin\theta\cdot0 + 0 + \cos\theta\cdot0 &(-\sin\theta)^2 + 0 + \cos\theta^2\end{pmatrix}\\\\&=\begin{pmatrix}1 &0 &0\\0 &1 &0\\0 &0 &1\end{pmatrix}\end{align*}

$R_y$の転置行列$R_y^T$が、確かに$R_y$の逆行列になっている。これは、積の順序を入れ替えても同じ結果になる。また、同次座標用の$4\times4$行列で計算した場合の結果は、もちろん$4\times4$の 単位行列(identity行列)である。

詳しい証明は省くが上の定義から、直交行列の各列について次の性質が導かれる。
(ⅰ) 直交行列の各列は大きさが $1$ である
(ⅱ) 直交行列の各列は互いに直交している (任意の2つの列同士の内積が $0$ になる)

たとえば、次の行列$M$が直交行列であるとしよう。\[ M = \begin{pmatrix}m_{11} &m_{12} &m_{13} &m_{14}\\m_{21} &m_{22} &m_{23} &m_{24}\\m_{31} &m_{32} &m_{33} &m_{34}\\m_{41} &m_{42} &m_{43} &m_{44}\end{pmatrix}\] $M$はすべての列の大きさが $1$ であり、任意の2つの列は互いに直交しているので、第1列目$(m_{11}, m_{21}, m_{31}, m_{41})$と第2列目$(m_{12}, m_{22}, m_{32}, m_{42})$の内積や、第2列目$(m_{12}, m_{22}, m_{32}, m_{42})$と第4列目$(m_{14}, m_{24}, m_{34}, m_{44})$の内積はいずれも $0$ になるということである (このことは各列だけでなく各行についても成り立つ ; 詳しくは この性質を正規直交という)。

回転行列も直交行列に属すので、回転行列についても各列の大きさが $1$ であり、各列は互いに直交するという性質は満たされる。
回転行列は直交行列ではあるが、直交行列がすべて回転行列であるかというと、そうではない。具体的には、回転行列の場合は、
(ⅰ) 各列は大きさが $1$ である
(ⅱ) 各列は互いに直交している (任意の2つの列同士の内積が $0$ になる)
という2つの性質の他に、もう1つ次の性質が満たされていることが必要である。
(ⅲ) 行列式が $1$ である

ここに現れた「行列式」についての解説は数学的にやや深入りすることになるので省略するが、つまり、回転行列はこの3つの性質が満たされていなければならないのである (この3つの性質のうち1つでも欠けると回転行列にはならない)。



D) 応用例

3-6節で見たようにベクトル $\boldsymbol{a} = (a_x, a_y, a_z)$、$\boldsymbol{b} = (b_x, b_y, b_z)$ の外積 $\boldsymbol{a} \times \boldsymbol{b}$ は\[ \boldsymbol{a} \times \boldsymbol{b}\ =\ (a_yb_z - a_zb_y,\ a_zb_x - a_xb_z,\ a_xb_y - a_yb_x) \]として表された。
図8  a, b の外積 a x b
そして外積 $\boldsymbol{a} \times \boldsymbol{b}$ は2つのベクトル $\boldsymbol{a}$、$\boldsymbol{b}$ と直交し、その向きは(左手系の場合には) $\boldsymbol{a}$ に左手の親指を、$\boldsymbol{b}$ に人差し指を合わせたときの左手の中指の指す方向として定義されたのであった。そして、そこで述べたように上記の $\boldsymbol{a} \times \boldsymbol{b}$ が $\boldsymbol{a}$ や $\boldsymbol{b}$ と直交することを示すのは容易であり、それはただ内積を計算すればよい。
しかし上記の成分で表されるベクトルが定義通りの方向を向いているか、すなわち左手の親指を $\boldsymbol{a}$ に、人差し指を $\boldsymbol{b}$ に合わせたときの左手の中指の指す方向になっているかについては内積を計算しただけではわからない。
ここでは任意軸周りの回転行列を用いて、この外積の向きの問題について考えていこう。

$\boldsymbol{a}$、$\boldsymbol{b}$ の外積 $\boldsymbol{a} \times \boldsymbol{b}$ の向きが左手の中指の指す方向になっているかを調べるために、以下では任意軸回転によって外積を'構成'する。
$\boldsymbol{a} = (a_x, a_y, a_z)$ を単位ベクトルとし、$\boldsymbol{b} = (b_x, b_y, b_z)$ を $0$ ではない任意の大きさのベクトル、2つのベクトルのなす角を $\theta$ とする (図9)。さらに $\boldsymbol{a}$、$\boldsymbol{b}$ と同じ平面上に $\boldsymbol{a}$ と直交するベクトル $\boldsymbol{c}$ を図10に示されるように定める。このとき $\boldsymbol{c}$ は適当な $t$ ($t > 0$)を用いて、$\boldsymbol{c} = t\boldsymbol{b} - \boldsymbol{a}$ と表される。

図9  a は単位ベクトル
図10  b は単位ベクトルではないので、tb における t は長さではなく倍率である (t > 0)

$|\boldsymbol{a}| = 1$ であり、$\boldsymbol{a}$ と $\boldsymbol{b}$ のなす角が $\theta$ であるから、下図11に示されるように、\[ \boldsymbol{a}\cdot t\boldsymbol{b} = t(\boldsymbol{a}\cdot\boldsymbol{b}) = t|\boldsymbol{a}||\boldsymbol{b}|cos\theta = 1 \]である (図は $0 < \theta < 90^\circ$ の場合であるが、$90^\circ < \theta < 180^\circ$ であれば $t(\boldsymbol{a}\cdot\boldsymbol{b}) = -1$、$\boldsymbol{c} = t\boldsymbol{b} + \boldsymbol{a}$ であり、$\theta = 90^\circ$ の場合は $t$ は必要ないので $\boldsymbol{a}\cdot\boldsymbol{b} = 0$、$\boldsymbol{c} = \boldsymbol{b}$ となる)。

図11
図12  a を回転軸として c を90°回転させると、a x b と同じ方向になる

$\boldsymbol{a}$ と $\boldsymbol{b}$ の外積 $\boldsymbol{a} \times \boldsymbol{b}$ の向きは左手の親指を $\boldsymbol{a}$ に、人差し指を $\boldsymbol{b}$ に合わせたときの中指の指す方向であるが、それは図12に示されるように、$\boldsymbol{a}$ を回転軸としてベクトル $\boldsymbol{c}$ を $90^\circ$ 回転させた方向に等しい。したがって、軸 $\boldsymbol{a}$ 周りの $90^\circ$ の回転を表す回転行列と $\boldsymbol{c}$ の積を計算すれば外積 $\boldsymbol{a} \times \boldsymbol{b}$ の方向が求められるわけである。

上で見たように、単位ベクトル $\boldsymbol{n} = (n_x, n_y, n_z)$ を回転軸とする角度 $\theta$ の回転を表す行列は
\[\begin{pmatrix}n_x^2(1-\cos\theta) + \cos\theta &n_xn_y(1-\cos\theta) - n_z\sin\theta &n_xn_z(1-\cos\theta) + n_y\sin\theta \\n_xn_y(1-\cos\theta) + n_z\sin\theta &n_y^2(1-\cos\theta) + \cos\theta &n_yn_z(1-\cos\theta) - n_x\sin\theta \\n_xn_z(1-\cos\theta) - n_y\sin\theta &n_yn_z(1-\cos\theta) + n_x\sin\theta &n_z^2(1-\cos\theta) + \cos\theta \end{pmatrix}\]
であるが、今の場合 回転軸は $\boldsymbol{a} = (a_x, a_y, a_z)$、回転角度が $90^\circ$ であるから、この行列の $n_x$、$n_y$、$n_z$ を $a_x$、$a_y$、$a_z$ に置き換え、$cos\theta = 0$、$sin\theta = 1$ とすればよい。そうすると、軸 $\boldsymbol{a}$ 周りの $90^\circ$ の回転行列は\[\begin{pmatrix}{a_x}^2 &a_xa_y - a_z &a_xa_z + a_y \\ a_xa_y + a_z &{a_y}^2 &a_ya_z - a_x \\ a_xa_z - a_y &a_ya_z + a_x &{a_z}^2 \end{pmatrix}\]と表される。
あとはこの回転行列と $\boldsymbol{c} = t\boldsymbol{b} - \boldsymbol{a}$ の積を計算すればよいが、この回転によって $\boldsymbol{a}$ は変化しないことと、$t(\boldsymbol{a}\cdot\boldsymbol{b}) = 1$ に注意すれば、この積は以下ように計算される。
\begin{align*}&\begin{pmatrix}{a_x}^2 &a_xa_y - a_z &a_xa_z + a_y \\ a_xa_y + a_z &{a_y}^2 &a_ya_z - a_x \\ a_xa_z - a_y &a_ya_z + a_x &{a_z}^2 \end{pmatrix}\left\{t\begin{pmatrix}b_x \\b_y \\b_z \end{pmatrix}-\begin{pmatrix}a_x \\a_y \\a_z \end{pmatrix}\right\} \\\\&= t\begin{pmatrix}{a_x}^2 &a_xa_y - a_z &a_xa_z + a_y \\ a_xa_y + a_z &{a_y}^2 &a_ya_z - a_x \\ a_xa_z - a_y &a_ya_z + a_x &{a_z}^2 \end{pmatrix}\begin{pmatrix}b_x \\b_y \\b_z \end{pmatrix}-\begin{pmatrix}a_x \\a_y \\a_z \end{pmatrix} \\\\&= t\begin{pmatrix}{a_x}^2 b_x + a_xa_yb_y + a_xa_zb_z + a_yb_z - a_zb_y \\ a_xa_yb_x + {a_y}^2 b_y + a_ya_zb_z + a_zb_x - a_xb_z \\ a_xa_zb_x + a_ya_zb_y + {a_z}^2 b_z + a_xb_y - a_yb_x \end{pmatrix}-\begin{pmatrix}a_x \\a_y \\a_z \end{pmatrix} \\\\&=t\begin{pmatrix}a_x(a_xb_x + a_yb_y + a_zb_z) \\ a_y(a_xb_x + a_yb_y + a_zb_z) \\ a_z(a_xb_x + a_yb_y + a_zb_z) \end{pmatrix}+t\begin{pmatrix}a_yb_z - a_zb_y \\ a_zb_x - a_xb_z \\ a_xb_y - a_yb_x \end{pmatrix}-\begin{pmatrix}a_x \\a_y \\a_z \end{pmatrix} \\\\&=\begin{pmatrix}a_x(t(\boldsymbol{a}\cdot\boldsymbol{b}) - 1) \\ a_y(t(\boldsymbol{a}\cdot\boldsymbol{b}) - 1) \\ a_z(t(\boldsymbol{a}\cdot\boldsymbol{b}) - 1) \end{pmatrix}+t\begin{pmatrix}a_yb_z - a_zb_y \\ a_zb_x - a_xb_z \\ a_xb_y - a_yb_x \end{pmatrix} \\\\&=t\begin{pmatrix}a_yb_z - a_zb_y \\ a_zb_x - a_xb_z \\ a_xb_y - a_yb_x \end{pmatrix}\end{align*}
この計算結果に現れたベクトルは左手の親指を $\boldsymbol{a}$ に、人差し指を $\boldsymbol{b}$ に合わせたときの左手の中指の指す方向になるように構成されたものであり、係数 $t$ は $t>0$ として定められていた。この $t$ を $1$ としたものがベクトルの外積である。

ただし上で示した外積の'構成'は、外積の向きに関しての数学的証明として使うことはできない。この点には注意しなければならない。
上記の方法では外積 $\boldsymbol{a} \times \boldsymbol{b}$ が中指の方向を向いていることを示すために、任意軸回転を表す回転行列を使用した。この回転行列は本節冒頭でも述べたようにロドリゲスの回転公式から得られるものであったが、重要なのはこのロドリゲスの回転公式がベクトルの外積を用いて構成されるという点である。
より詳しくはロドリゲスの回転公式は外積が(左手系の場合には)左手の中指の方向を向くことを前提として構成されており、この回転公式から得られる任意軸周りの回転行列ももちろんその性質を前提として構成される。つまり上記で使用した任意軸周りの回転行列は外積が中指の方向を向くことを前提として構成されるものであり、その回転行列を用いて外積の向きが中指の方向を向いていることを示すのはいわゆる循環論法なのである。
したがって外積が中指の方向を向くことを数学的に示すには、少なくともロドリゲスの回転公式を経由しない方法を採らなければならないのである (具体的な証明については12-1節参照)。





ここからは、本節で述べた内容に関してのプログラムを作成する。

# Code1
最初のプログラムは本節の最初に扱ったもので、初期状態の TrinoのCR軸周りに$50$°の回転を実行する。

図2 初期状態のTrinoとCR軸
図4 CR軸周りに50°の回転

[Code1]  (実行結果 図4)
Vector3 posR = new Vector3(2.8284f, 2.4495f, -1.4142f);
Matrix4x4 rotCR = TH3DMath.GetRotation4x4(50.0f, posR); // CR軸周りの回転
Trino.SetMatrix(rotCR);    


# Code2
次のプログラムも本節中で扱ったものであり、CR軸周りに$50$°の回転を行った状態の Trinoに対し、CG軸周りの回転を実行する。

図5 第1の回転実行後のTrinoとCG軸
図7 CG軸周りの回転

[Code2]  (実行結果 図7)
Vector3 posR = new Vector3(2.8284f, 2.4495f, -1.4142f);
Vector3 posG = new Vector3(-2.8284f, 2.4495f, -1.4142f);
Matrix4x4 rotCR = TH3DMath.GetRotation4x4(50.0f, posR);      // CR軸周りの回転
Vector3 posG1 = rotCR * posG;

i_degRot++;
Matrix4x4 rotCG = TH3DMath.GetRotation4x4(i_degRot, posG1);  // CG軸周りの回転

// CR軸周りに回転させてからCG軸周りに回転させる
Matrix4x4 R = rotCG * rotCR;
Trino.SetMatrix(R);


# Code3
本節において、回転行列は次の3つの性質を満たしていなければいけないと述べた。
(ⅰ) 各列は大きさが$1$である
(ⅱ) 各列は互いに直交している (任意の2つの列同士の内積が$0$になる)
(ⅲ) 行列式が$1$である

前節、及び本節のプログラム中においては、回転行列を取得するためにカスタムライブラリの以下のメソッドを使用した。
// axisを回転軸として角度degだけ回転させるMatrix4x4インスタンスを返す
TH3DMath.GetRotation4x4(float deg, Vector3 axis)

このメソッドから取得される回転行列が上記の3つの性質を満たしているかをプログラムによって確かめてみよう。
[Code3]  (実行結果 図13、図14、図15)
// (1)
Matrix4x4 R = TH3DMath.GetRotation4x4(100, new Vector3(3, 4, 5));
// (2)
//Matrix4x4 R = TH3DMath.GetRotation4x4(85.28f, new Vector3(-11.53f, 28.2f, 40.65f));
// (3)
//Matrix4x4 R = TH3DMath.GetRotation4x4(-24.56f, new Vector3(802.22f, -459.51f, -363.84f));

Vector4 c1 = R.GetColumn(0);    // 第1列目
Vector4 c2 = R.GetColumn(1);    // 第2列目
Vector4 c3 = R.GetColumn(2);    // 第3列目
float mag1 = c1.magnitude;
float mag2 = c2.magnitude;
float mag3 = c3.magnitude;
float dot12 = Vector3.Dot(c1, c2);
float dot13 = Vector3.Dot(c1, c3);
float dot23 = Vector3.Dot(c2, c3);
float Det = R.determinant;        // 行列式

Debug.LogFormat("(1)\n(mag1  {0:f3})  (mag2  {1:f3})  (mag3  {2:f3})\n" +
        "(dot12  {3:f3})  (dot13  {4:f3})  (dot23  {5:f3})\n(Det {6:f3})",
        mag1, mag2, mag3, dot12, dot13, dot23, Det);

このプログラムは TH3DMath.GetRotation4x4(..) から取得された回転行列について、各列の大きさ、各列の間での内積、その行列の行列式を表示するものである。8~10行目のc1c2c3が回転行列の第1列目、第2列目、第3列目を表し、11~13行目のmag1mag2mag3がそれらの列の大きさを表している (第4列目の大きさは以下に示される行列から、明らかに$1$であることがわかる)。14~16行目のdot12dot13dot23は1列目と2列目の内積、1列目と3列目の内積、2列目と3列目の内積を表している。ここで取得される回転行列Rは $4\times4$行列であるから第4列目も存在するが、第4列目との内積は確かめる必要はない。実際、本節冒頭で見たように任意軸回転を表す$4\times4$行列は次の形をしている。
\[\begin{pmatrix}r_{11} &r_{12} &r_{13} &0\\r_{21} &r_{22} &r_{23} &0\\r_{31} &r_{32} &r_{33} &0\\0 &0 &0 &1\end{pmatrix}\]第4列目は $(0, 0, 0, 1)$ である。この第4列目と他の列、例えば第1列目との内積は以下に示されるように$0$である。\[ r_{11}\cdot 0 + r_{21}\cdot 0 + r_{31}\cdot 0 + 0\cdot 1 = 0 \]この結果は第2列目との内積、第3列目との内積でも同様である。つまり、(同次座標に対応した)$4\times4$回転行列の第4列目と他の列の内積は上記からわかるように常に$0$である。そのため、$4\times4$回転行列の各列が直交しているかを確かめるためには、第1列目から第3列目の間で内積を計算すればよい。
17行目の determinant は行列式を表すMatrix4x4構造体のプロパティであり、R.determinant は回転行列Rの行列式を意味する。

以下は、1~6行目に示される3つの回転行列のそれぞれの実行結果である。

  • 図13 Code3 実行結果 (1)
  • 図14 Code3 実行結果 (2)
  • 図15 Code3 実行結果 (3)

(1)の回転行列は $(3, 4, 5)$ の方向を回転軸とし、$100$°の回転を行うものである。
(2)の回転行列は $(-11.53,\ 28.2,\ 40.65)$ の方向を回転軸とし、$85.28$°の回転を行うものである。
(3)の回転行列は $(802.22,\ -459.51,\ -363.84)$ の方向を回転軸とし、$-24.56$°の回転を行うものである。
図13、図14、図15はそれぞれの実行結果であるが、いずれの場合も各列の大きさは $1$ であり、各列の間の内積は $0$、そして行列式は $1$ という結果になっている (出力は小数第3位までの表示)。












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